鵜って鳥、知ってる? 日本のどこだかの川にもいるらしいんだけど、その鳥は、漁のために首に紐をつけられ、海や川へ放たれるんだ。 「どんくせー奴だなあ。そんなんじゃ日が暮れちまうぞ。」 「……ごがっばばば、ば……」 ……鵜って鳥に、今日ほど親近感を抱いた日はなかったね、オレ。 「…あれだけかかってこんだけか。」 地面にうちあげられたオレの戦利品を数えると、リボーンは不服そうに呟いた。 「オレは赤ん坊だぞ。何はなくとも栄養面はしっかりしてもらいたいもんだ。」 「ぜーたく言うな!それ捕るのにどれだけ大変だったと思ってんだよ!」 赤ん坊なら赤ん坊らしくミルクでも飲んでろよ! 不服を申し立てるリボーンに、オレは心の中で突っ込んだ。今更過ぎて口に出す気にもならない。 それに、普通の赤ん坊よろしく哺乳瓶でミルク飲んでるこいつの姿なんて、できれば見たくない光景だ。 …いや、なんとなく。 だってそれってすっげシュールじゃねえ? ぶちぶち文句を垂れながらも焼き魚は各々の胃袋におさまっていく。 焚き火で焼いた魚なんて初めてだけど、これがうまい。 そのうち2人とも食べることに集中して無言になっていった。やっぱり腹ペコだったんだよな、オレも、リボーンも。 しばらくして、何匹めかの魚にかぶりつきながらリボーンが切り出した。 「言い忘れてたが、午後からの課題はハードだからな。ちゃんと食っとけよ。」 きた。 食うのに忙しかった手も止まり、オレは思わず固まった。 ハードって…じゃあ今までのはそうじゃなかったっての? この一ヶ月間の日々で、何度オレが死に掛かったことか! 午後からの修行は、今までと比べ物にならないほどキツイって、そう解釈すればいいのか? 「あの…オレ急に腹が」 「魚捕ったとき、鞭も見つけといたしな。準備万端だぞ。」 「…リボーン?」 「オレの予定は決定だ。」 おずおずと体調不良をうったえようとするオレを、リボーンはその黒い瞳でもって黙らせた。 「変更はありえねーんだぞ。」 「・・・・・・・。」 ・・・くっそー。 にやり、と笑うこの赤ん坊に太刀打ちできるやつがいるなら見てみたい。 ほんとにいれば、の話だけど。 「…内容くらいは前もって教えてくれんだろ?」 「もちろんだぞ。」 もうどうにでもなれ! 自棄ぎみに魚の身をかじるオレの様子を見、ことさら満足そうにリボーンは頷いた。 「しんどいだけじゃお前もクソつまんねーだろーと思ってな。今回はゲーム的な要素を盛り込んだぞ。」 「へえ?」 リボーンの意外な言葉に、オレは興味をもった。声音もついつい上がる。 こいつもこいつなりに色々考えてくれてんだなあ。 「面白そーじゃん。で、どんなんだ?」 「えー、コホン」 身を乗り出すオレに、リボーンは気取って咳払いをしてみせ、続けた。 「オレ達は今どこにいる?」 「ん?まあそりゃ…山ん中だよな。」 「そうだ、それもかなり奥深い。下山は今のお前の足じゃとてもムリだ。だから帰るときは無線でヘリを呼ぶ手はずになってる」 ヘリと聞いて、オレの眉間にシワが寄る。否応なしに昨日のスカイダイビングを思い出しちまった。 「その無線だが、今ここにはない。」 「え?」 無線がない? リボーンの言葉にオレは首を傾げた。 俺の足じゃ下山は無理で…だからオレ達はヘリで帰ることになってて…ヘリに迎えに来てもらうには無線が必要で…無線が無いってことはつまり? 「それじゃ帰れないじゃん」 ―――あ。 言ってしまってから気付く。 まさか…ゲーム要素を盛り込んだ修行って… 「お前が自分で取り戻すんだぞ、ディーノ。」 「えーーーーーーっっっ!!??」 「この、一ヶ月」 目をひん剥くオレの叫びをことごとく無視し、リボーンは言葉を続けていった。 「…お前を見ていて解ったことがある。お前に足りねーのは…まあ色々とありはするが…、一番はなりふり構わなさだ。」 「う…」 言われてみれば確かに思い当たるふしは、ある。 口ごもるオレの前で、リボーンがポイ、と魚の骨を地面に放った。 「帰れないとなればやる気も出んだろ。」 ―――でも!だからってさあ!! 「どー考えたってムリだろ!こんな山ん中だぞ?ちっこい無線なんか見付かりっこないって!!」 「誰が探せって言った?」 両手を広げて言い募るオレに、リボーンはきょとん、と首を傾げた。 「―――オレは『取り戻せ』と言ったんだぞ?ディーノ。」 |