ある日寮に戻ると、そこには赤ん坊がいた。
オレの部屋だよな?ってあたりを3回くらい見回して確認したあと、オレは思ったね。

―――やった!弟が出来た!!

舞い上がったね。生まれて初めて親父に感謝したよ。
歳の離れすぎた弟ってのも何だか照れるな、とか思いつつ愛しい弟にハグしようとすると―――…顎に強烈な一撃を食らった。

「オレの名前はリボーン。今日からお前の家庭教師をつとめる」

衝撃的すぎるその発言にオレはただ呆然として、赤ん坊そのもののぷっくりとした唇を見てた。


つまり話はこうだ。
オレにはろくに会った事もない兄貴が2人ほどいる。どっちもこれまたオレとはろくに話した事もない親父の仕事を手伝っていた―――いずれ親父のあとを継ぐために。

その兄貴が2人とも殺されたのだと、リボーンと名乗る赤ん坊はオレに告げた。
ふうん、とそれにオレが相槌を打てば、こちらを見つめて訊いてくる。


「悲しんでやらないのか?お前の実の兄貴だろう」
「…泣かないと駄目なのか?」


殆ど会った事もない人間のために涙なんか流せない。たとえそれが血の繋がった兄弟であっても、同じ時間を分かち合わなきゃ家族とは言えない。―――少なくともオレはそう思う。


「悲しくもないのに泣くなんて、ウソだろ」


少しは非難されるかと思ったが、リボーンはただ、ふうん、と呟いただけで、オレの言葉を特に気にしていない様子だった。よかった。バカにされるのもナメられるのも慣れてるし気にならないが、くどくどと説教されるのは苦手だ。特に家族の事に関してしたり顔で干渉されるのは我慢ならない。それはオレが特定の友人を作らない理由でもあった。


「兄貴が殺された理由を訊かなくていいのか」
「…あー、いいや」

リボーンがエスプレッソをひと口飲みこむ様子を、夢でも見てるような気持ちで眺めていた。カップを持つ手が信じられないほど小さい。微笑ましい。こいつ嫌いじゃないな。本当にオレの弟だったら良かったのに。恐ろしく粗暴だけど、何気に話は解るみたいだし。それだけに残念だ。


「どーせ後継者潰しとかそーゆーベタな経緯なんだろ?」
「まあ、概ねそれであってるがな」
「それより。…先に言っとくけど」


…もっと違う形で会えればよかったんだけどな。


「オレは兄貴の代わりにはなれねーぜ。」


リボーンを見据えて言うと、帽子の上のカメレオンがキョロリと目玉を動かした。
オレはそれを視界の端に見ながら、一気にまくしたてた。抑えようとしたけれど、だんだんと口調が荒くなっていくのが自分でも解った。


「こんな牢獄みてーな寮にブチ込んで散々ほったらかしにしといて、兄貴が死んだからお前跡継ぎになれって?おかしいだろ。第一、オレは決めてんだ。」


そんなオレをリボーンは黙って見つめてくる。その大きな瞳に負けないように、オレは自分の両目に渾身の力をこめた。オレとは違う黒い瞳。それはオレにも流れるシチリアの血を嫌でも思いおこさせた。
結局オレは恐ろしいのかもしれない。オレの中の親父の血が人を傷つける事が。そしてその事によって、オレ自身が傷つく事も。


「何があっても、オレはマフィアにだけはならない―――…無駄足踏ませて悪いけど、帰って親父にそう伝えといてくれ。」


だが、それで何が悪い?
傷つけず傷つけられないならそれでいいはずだ。血で血を洗う争いなんて馬鹿げてる。ガキでさえ知っている事を、親父たちはなんで繰り返すのか。オレを、巻き込もうとするのか。


オレが肩で息をしていると、コン、と音を立て、カップがテーブルの上に置かれた。
帽子のつばから首をのばすカメレオンのあごを撫でながら、リボーンは言った。耳障りの良い声で、まるで歌うように。


「聞きしに勝るクソガキだな。幸福なことだ」


一瞬、いやそれよりもっと長い間だったかもしれない。何を言われたのか解らず、オレは呆然とした。


「選択の余地はねーぞ。お前にも、オレにもな。」


その時解った。こいつが干渉してこないのは、人の事情に寛容だからじゃない。オレ自身に興味がないんだ。

オレの嫌うその瞳の黒さは、オレに対する軽蔑の色そのものだった。



「お前が何と言おうがオレはお前をキャバッローネのボスにする。それがオレの仕事だからな。」










続きます。
この2人、最初は仲悪いと萌えるなって思うんです。



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