――――さんざんだ。


今のオレの状態を一言で表すなら、こんな感じ。

リボーンがやって来てから一ヶ月、だけど平和だった日々はそれよりもずっと遥か昔のように感じられる。

この一ヶ月…本当に、本当に波乱万丈だった。

最近、一気に自分がフケこんだように思える。実際に、今朝鏡を見てたら白髪を発見した。ショックだ。一本だけだったし、勿論すぐさま抜いたけど。
このまま行ったらその内ハゲんじゃねーのかオレ…マジ勘弁してくれ!!


そういえば今日、クラスメートの奴から『女でもできたのか』って的外れなことを聞かれた。
ハハハ、そうだといいんだけどな。って力なく答えたあと、どうしてそんな事を言うのか訊き返すと、そいついわく、『最近お前の背中から哀愁が漂ってるように見える』んだってさ。

―――哀愁じゃなくて死臭の間違いじゃねーの?

言いかけ、すんでの所でとどまった。ダメだ、とてもじゃないけど言う気になんかなれねー。

友よ、オレには死神がついてんだ。見た目だけは可愛い、赤ん坊の姿をした…なんて、な。


今日も終業を知らせるベルが校舎に響く。
それを聞きながら、オレはでっけー溜息をついた。
頭の中にあるのは、いつかテレビでどっかの女優が恋人に向けて言っていた台詞と同じ。『帰りたくない…』。

でも、オレは知ってた。正しくはこの一ヶ月で思い知らされていた。
死神のやつは必ずオレの前に現れる。オレが誰と、どこにいようが。
誘われて行った合コン先で、相手の女の子たちに紛れてるあいつの姿を見た時は思いっきり噴いたね。飲んでたジンジャーエールを、オレの真向かいにいた、別の女の子に…。ああ、嫌なこと思い出しちまった。

とにかくリボーンからは逃げられない。逃げようとしても、結局そのツケが何倍にもなってかえってくる。それにオレの帰る場所ったら結局はあの寮しかない。こんな時何日も世話してもらえるようなダチも、いないし。

そういうわけで、オレはのろのろと帰り支度を始めるのだった。


「よーディーノ。合コンいかねー?」

「おー・・・わりい、エンリョしとくわ。またな。」


違うクラスの知り合いに手を振り、オレが校門を出ようとしたその時。
耳に軽快な自転車のベルの音が聞こえた。
自転車の主はけたたましいベルと共に猛スピードでこっちに近付いてくるようだ。
あぶねーな。あわてて学校の敷地のほうへ引っ込もうとした…はずなんだけど、次の瞬間オレは転倒していた。どうやら足元の小石につまずいちまったらしい。


「いてて・・・。」

「なにやってんだーディーノー!」


さっき手を振った奴が遠くでゲラゲラ笑ってる。オレが見事にひっくり返った瞬間を目撃したらしい。あーもーうるせーなあ。ったく、なんだってこんな所に小石が…

強か打ちつけた後ろ頭を押さえつつ立ち上がろうすると、ついた手のすぐ脇にこう書いてる箱が落ちてた―――”ボンゴレピザ”。
見れば、箱から飛び出したピッツァが、濁った蒸気と不吉な音を立てながら地面を溶かしてる。もしも転んで尻餅をついてなかったら、あの様子はそのままオレの運命だっただろう。

あ…あぶねえ!!!

間一髪。オレの背中を嫌な汗が突っ切っていく。
青くなってるオレの背後で、自転車が停まる音に混ざり、チッ、という舌打ちが確かに聞こえた。


「あら…偶然ね、ディーノ。」

「……毒サソリ……。」


振り向けば、完璧に整った、だけど表情の全く読めない顔をした女性が一人。

毒サソリビアンキ。リボーンと同じく殺し屋にして、ポイズンクッキングの使い手。

嘘みたいな話だが、リボーンの愛人、らしい。
リボーン曰く…『ビアンキはオレにメロメロだぞ』。
最初は半信半疑だったオレも、確かに今はそう思わざるをえない。
何しろ彼女は、リボーンの生徒―――つまりオレが死ねば、自分はリボーンを取り戻すことができるのだと信じきってる。
だが、リボーンは実は、オレの教育を理由にして彼女と円満に縁を切りたかっただけに違いない…とオレは踏んでいた。

毒サソリには言わないけど。…殺されるから。毒サソリに。


「じゃあね。私、忙しいの。」


チリンチリーン。


長い髪をなびかせて、颯爽と自転車で走り去るビアンキを見送りながら、オレは思った。



リボーンが帰らねー限り、オレの平和な生活って、もう元には戻らねーのかな……









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ディーノはビアンキの事が苦手だと思う(嫌い、ではない)
殺されかかったりとか抜きにしても、
色んな意味で理解できない!みたいな。




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