肌寒さと自分のくしゃみで目をさました。まず見えたのは、星空。それからたくさんのそびえたつ木々と、夜の色よりも真っ黒に繁る葉。 「・・・・・」 仰向いて寝転んだまま、まずはゆっくり深呼吸。それから恐る恐る両手足に力を入れてみた。 生きてる…し、どこかを折ったりした様子もない。しいて言えばゴツゴツした地面に背中が痛むくらいだ。 望みもしないスカイダイビングの末、オレはどうやら助かったらしい。 …死ぬかと思った…。 オレは両手で顔を覆い、心からの溜息をついた。夜気の中で、自分の息だけがいやにあったかい。それだけのことなのに。…何だよ、なんだか泣けてくるじゃねーか。 生きてる実感に浸るオレへ、心をえぐるツッコミがここぞとばかりに降ってきた。 「オッサンくせーくしゃみだな。」 「・・・・・・・うっせーなぁ。」 寝転がったまま指の間から視線を泳がせば、声の主はすぐに見付かった。 1メートルも離れてない場所に焚き火がおこされていて、その向こうにリボーンはいた。その脇に木の枝が小高く積まれいる。 「もーすぐ夜明けだ。まだ寝てろ。」 新しい木の枝を炎の中へ放りこみながら言うリボーンに、オレはふと妙な気分になった。 「お前、寝てねーんじゃねーのか?」 正確な時間はわからないけど、今の言葉が本当なら、こいつが起きていてしかもまったく眠そうな素振りさえ見せないなんてありえない話だ。 赤ん坊であることを差し引いてゼロにしたとしても余りあるこいつの寝汚さは、他でもないオレが一番よく知ってる…つもりだ。少なくとも、睡眠妨害を理由にこいつに殺されかかった回数では今のところ誰にも負けない自信がある。いや、そんな自信いらねーんだけど。 とにかく、何かがおかしい。オレはそう感じてた。 ところがオレの疑問は、リボーンの単純明快な答えであっさり解決してしまった。 「眠ったぞ。お前がだらしなく気絶してる間に、嫌ってほど」 「…いやってほど?」 「ああ。いやってほど。」 「そ、そーか。」 「そーだぞ。」 はっきり言い張るリボーンに、却って何か訊かれたくない理由でもあるのかって気もしたけど、これ以上突っ込んでも結局無駄に終わるように思えて、オレは早々に諦める事にした。好意はありがたく受け取ろう。とりわけリボーンのそれは、レアだ。 気を抜いたとたん肌寒さが蘇ってきた。くしゃみで目が覚めたことに思い当たって、少しだけ火の側に近寄る。 山の中はひどくしんとしていた。真っ赤な薪が時々立てるパチ、という音以外は、何も聞こえない。 炎を見つめてると、その向こうのリボーンがゆらゆら揺れて見えた。 レオンはご主人とオレとの間を行ったりきたり、せわしなく動いてる。それ自体は珍しいことじゃないけど、しきりに姿を変えてるのは何でだろう?変わる姿もリボーンだったり、熊だったり…ここまではまあ解るんだけど、今日のバリエーションには、赤いバッテンなんてのもあった。 「レオンのやつ、おかしくねーか?どーしたんだ?」 「…炎のせーで興奮してんだろ。レオン、こっち来い。」 ご主人に呼ばれたレオンは、数秒の間ためらうみたいにオレを見てたけど、リボーンに姿を変えたままホンモノのリボーンのもとへ戻って行った。 いつも思うけど、ほんとにすげーな。本当にそっくりそのままミニチュアのリボーンだ。大したもんだぜ。 リボーンの手の中で変化を続けるレオンを見ながら、オレはふと思い当たったことを口にしてみた。 「なあ、リボーン」 「なんだ」 「寝袋とかねーの?」 「甘えんな。」 「だって眠れねーよ」 「いーから目ぇ閉じとけ。」 ちぇっ。期待はしてなかったけどさ。それでもぶーぶー言ってると、二度と起きられなくしてやろーか、なんて脅されるもんだから、あわてて目を閉じた。 ―――ったく、短気なんだからな。 薪が、オレのそばで鋭く鳴ってる。何度目かの音に混じってリボーンの溜息が聞こえた気がしたんだけど、きちんと確かめることなく、オレはそのまま眠りに落ちた。 ―――オレはそれを物凄く後悔する事になるんだけど……それはまた、別の話だ。 |